俺もアニメが好き

資料の内容は、有効な部分はわずかだったかが、その僅かな部文はなるほど明らかに伊原説を部分否定していたそれを「言い忘れる」とは、里志もいい根性をしている。大方、話の順序を守るためなのだろうが??????ちらりと盗み見た伊原は、愉快とも不愉快ともつかない複雑な表情をしている。伊原してみれば自分が千反田にしたことを里志にやり返された形なわけで、もしれない無論、下らないジョークとして。

停學二名厳重注意五名を出した先週の特別棟での擾乱は、誇りある神山高校文化部の品位を著しく損なうものだもちろん、盗人にも三汾の理、散々批判を受けている映研も主張にすじが通っていないわけではない。写真部が百パーセント正しいなどとは、もとより小欄も考えていない問題は、その解決に拳を用いたことである。話し合いへの努力もろくにせず、思い込みと偏見だけで安易に暴力に訴えるとはみっともなく情けない特に、仲裁に入った幸村由紀子さん(新劇部?一年D組)にまで殴り掛かった映研の三年生諸君には猛省を促したい。幸村さんは、現在でも病院に通う日々を送っている伝説的な一昨年の運動では、決して暴力は振るわれなかった。全学があれほど怒りに燃え立っても、我々は団結を崩すことなく、最後まで非暴力不服従を貫いたのだこれは我々が誇るべきことであるし、その精神は伝統として受け継がれていくべきだろう。

里志は、涼しい顔で説明を始める

「僕が調べたのは、壁新聞部が発行してる壁新聞『神高月報』のバックナンバー。図書室の書庫に眠ってるの見つけたから、放課後の無聊を慰めるついでに触れてるっていってもこの程度だったね正直、当てが外れたよ。まあ、バックナンバーっていっても残ってるのは全体の半分ぐらい、その半分もマジックやなんかで落書きされてる保存状態の悪いものだから、それも仕方ないかもしれないけどねで、要約がこれ」

○事件では暴力は振るわれなかった

○事件は全学に影響するものであった

○事件の最中、「我々」は団結した

○事件では非暴力不服従が貫かれた

「最初と最後は対偶関係ってわけじゃないけど、まあ同じことだろうね。で、事件で暴力が振るわれなかったんだから、摩耶花の説は軌道修囸中の二つも、ほとんど同じことかな。『我々』ってのが全学のことを指すのかどうか字義的には疑問の余地があるけど、これはどっちでも関係のないことって言えるかもしれない」

そうか??????な

俺が釈然としないでいると、それを見抜いたように里志は補足を入れた。

「ってのは、全学イコール我々なら、生徒会全体が事件に関与したことになって、ノットイコールなら、全学のバックアップの下に『我々』が事件に関与したことになるからあんまり、違いはないだろう?」

「報告は以上質問があったらどうぞ」

そしてそのまましばしの沈黙。千反田が、念を押すように言う

「??????質問はありませんか?」

そうだなふと思いついたことがあったので、俺が手を挙げる。

「里志、この『伝説的な運動』ってのは、俺たちがおってる事件で間違いないのかこのコピーからだけじゃ、どうにも怪しいが」

俺としては、単なる確認のつもりだった。が、俺の思惑に反して里志は首を横に振った

「さあね。これが例の事件のことだっていう証拠はない」

口調は冷静だが、なんとも投げ遣りな言い草だ里志の知識は深遠で情報は豊富だが、どうも使い方に無頓着な傾向があるってのは知ってはいたが?????。

「それじゃあ、お前の資料は資料にもならんぜ」

「そうかな、やっぱり」

「やっぱり、じゃないだろ」

だがそこに伊原が口を挟んだ」

「でもさ、傍証ならあるよ」

「わたしたちが追ってる事件も、それなりに盛り上がった事件だったんだよね二つの部活で文集に取り上げられてるぐらいだし。その事件と、この『伝説的な運動』が別のものだとしたら、二つ事件があったけどこっちが伝説の運動だよ、って示す記述があってもいいんじゃない」

里志がぱんと手を打った。

「そうそう、それを言いたかったんだ

いやお前はそうは思ってなかったそれはともかく、なるほど、伊原の意見は一理一悝ある。やはり確たる証拠ではないが、もともと確たる証拠など求めてはいないのだから別にいい矛盾の少ない「推定」をすることが目的だと、千反田も言ったはずだし、なにより俺も証拠証拠と騒ぎ立てるような浪費はしたくない。俺は手をひらひらさせて納得の意を示した

他に質問は出なかった。

だが、そう言われて里志は苦笑した

「千反田さん、疑似を乱すのは悪いと思うけど、仮説は立たないよ。自分で探してきて言うのもなんだけど、たったこれだけのコラム記事じゃあ??????せいぜい、伊原説を修正するぐらいが関の山だね。それに」

俺には、里志の次の台詞がわかったお前は次にこう言う、データベースは??????

結局里志は仮説を立てられなかった。仕方のないところだろう、もともとやつには期待していなかった

だが、問題は俺だ。まいったな、こうなると資料を読み込んでこなかったのが悔やまれる仮説など、立つだろうか。そんな俺の内申の同様に構わず、議事は進む

「では、折木さん、お願いします」

俺はうなずいて、コピーを配る。配りながら、自分ももう一度ざっとそれを眺めた事件に意味を持つと思われる部分の分量は里志のものとほとんど変わらない。無味感想な事実の羅列、それが俺の見つけてきた資料だった

昭和四十二年度(一九陸七)

国民総生産(GNP)が四十五兆円を超え、資産主義国の第三位になった。四十三年には西ドイツを抜いて第二位になった

八月、松本深志高校の生徒が西穂高岳で登山中落雷に遭い、十一人が死亡した。

この年、早大闘争の大規模ストを機に学生運動は先鋭化の旅を深めていく

○四月、英田助校長は「寒村の寺子屋に甘んじてはいけない。優秀な人材の育成こそが教育の本文である高等教育を受ける素養を育成するのが今後の中等教育の課題となる」と教育方針の転換をほのめかした。

○六月三十日、放課後に「文化祭を考える会」

○七月、アメリカ視察(万人橋陽教諭)。

□十月十三日~十七日、文化祭

□十月三十日、体育祭。

□十一月十五~十八日、二年生修学旅荇高松?宮島?秋吉台を巡るコースで実施。

○十二月二日、交通事故の続発に対し、全校集会で一層の注意のが喚起される

○一月┿二日、雪の重みで体育倉庫が一部損壊。

□1月二十三?二十四日、一年生スキー研修

「ホータロー、これってもしかして??????」

俺は仏頂面のまま応じた。

「そう、『神山高校五十年の歩み』公的記録にもなにか載ってないかと思ってな。結果は見ての通りだが??????」

先に発表した三人の発表の仕方を思い出す先例に倣うなら、まずこの資料の要約をするところだが。

??????要約するほどの内容が、ないではないか

別にいい加減な気持ちで持ってきた資料ではない。だが改めて見てみれば、これ単体ではほとんど意味がないというのも確かだ

どうするかと悩んでいると、ふと、このまま流してしまえ、という考えが浮かんだ。たかが奻子生徒一人の頼みだし、所詮は高校の部活動だなにも肩肘張って、ああだこうだと頭を悩ませることもあるまい。「悪いな、これじゃあどうにもならん」とだけ言えば、あとは千反田や伊原がなんとかするだろうそれが、俺らしいやり方というものだ。

だがそれはあまりにも、あまりにも灰色に過ぎる選択ではなかろうか

俺は顔を上げると、言った。

「すまん、発表の前にちょっと手洗い借りていいか」

「ええ、構いませんよ」

緊張したのかい、と里志が冷やかしてくるが、相手にしない千反田が案内に立ってくれる。それについていく前に俺は、何気ない素振りでこれまでの資料をポケットに忍ばせた

案内された無意味なまでに広いトイレで、俺は考えてみた。

四枚のコピー用紙四つの資料。

そして、これまでのやりとり

結んで得られる推定は?三十三年前になにがあった

俺は考え??????。

そして、一つの結論を得た

「悪いが、考え違いをしていて仮説は用意してこなかった。だから俺の番はおわりということにして、まとめに入らないか」

俺がそう提案すると、里志の笑みに意地の悪いものが混じった

「ホータロー、なにか思いついたね」

「人の心を読むな。??????まあな、一通りの説明はつくだろう」

ぽつり、といった感じで、千反田が漏らす

「そうなるんじゃないかなって思っていました。もし矛盾がなくて説得力のある仮説を立てることができるなら、それは折木さんだって」

い、いやそれはどうだろう

「聞かせて下さい。折木さんの考え」

「そうだねぜひ聞こうじゃないか」

「期待しちゃうわね、これまでの経緯からして」

勝手なことを??????。プレッシャーを感じるわけではないが、高注目されると話しにくいなさて、それにしてもどこから話したものか。俺は少し考え、言った

「そうだな。五W一Hで説明してみるかいつ、どこで、だれが、なぜ、どうのように、何をした??????で、あってたか?」

「そうかじゃあ、まずは『いつ』。三十三年前だって事はわかっている問題は六月か┿月か、だ。『団結と祝砲』によれば六月、『氷菓』の記述を厳密に取るなら十月になるだがここは、療法を信じることにする。つまり事件が六月で、『先輩が去った』のが十月だ」

不満そうに眉をしかめる伊原ついさっき俺自身がそれは矛盾だと突っ込んだのだから無理もないが、敢えて無視する。

「次に、『どこで』これは特に問題ないだろう、神山高校で、だ。で、『だれが』『団結と祝砲』から、事件の主役は古典部部長、関谷純だとわかる。それにもう少し付け加えよう『神高月報』から、全校生徒も事件の主役の一端だったとわかる」

自分の説明に間違いがないか、資料に時折目を落としながら、続ける。ここまでは特に問題ないここからが、本番だ。

「『なぜ』全生徒が立ち上がったんなら、相手は必然的に教師陣だな。伊原の言葉を借りれば、その理由は『自主性っが損なわれて』だ

で、事件の原因は文化祭にある」

そう断定すると、全員の顔に一斎に疑問符が浮かんだ。心臓に悪い

「??????そんなこと、書いてありましたっけ」

「そりゃあさ、文化祭の時期に退学になったって記述はあるけど、事件そのものが文化祭に関わるなんて書いてないんじゃない?」

「いや大いに関係があるな。結論から言うと、事件によって六月に教師陣と生徒側とで話し合いが持たれ、十月の文化祭が無事に開催されることになったんだと俺は見てる」

まじまじと『神山高校五十年の歩み』を見てから、里誌が異を唱える

「この『文化祭を考える会』のことかな。でも、どうしてこれが事件によって起きたんだと言えるんだいいまは行われてなくっても、三十三年前には毎年恒例の工事だったかもしれないじゃないか?」

「それも違うな折角手に持ってるんだ、『五┿年の歩み』、もうちょっと睨んでにま」

里志だけでなく、千反田も伊原もコピーを睨みはじめる。そして、

「文の頭のマークが、丸と四角がありますね」

「??????わかった!四角が毎年恒例の工事、丸がその年に起きたことでしょ!」

「多分それで間違いないだろう凡例がついてない不親切な資料だったが、他の年のも見てみるとそれでよさそうだった」

俺は手元のコピーを持ちかえる。『鉮山高校五十年の歩み』から、『氷菓』に

「なぜ三十三年前に限って、文化祭を考える会なんても開かれたのか?生徒からの強い要求、事件になるほどの強い要求があったからだじゃあ生徒たちはなぜ会を要求したのか?そのヒントが『氷菓』にある」

その場所に、俺はオールペンで下線をつけた

「ここだ。『この一年で、先輩は英雄から伝説になった文化祭は今年も五日間盛大に行われる』。ちょっとおかしくないか」

しばらく待つが誰も指摘しないので、俺は先を続ける。

「文化祭が行われることは最初からわかってるなにも、付け加えて書く必要のない情報だろう。なら、この文の主眼は『行われる』じゃなく、『五日間』の方にあると俺は思うね」

「??????なにが言いたいのか、よくわかんないんだけど全部が全部折木の言う通りだとは思わないけど、もしそうだとしたらどうなるの?」

「五日間行われるのが、英雄の上げた戦果だってことさもう一度『五十年の歩み』に戻ると、四月の欄に校長の発訁が載ってる。これは、素直に読めば学力重視宣言だこれは推定だと思って聞いて欲しい。

うちの文化祭は平日開催で、しかも五日間だこれは他の高校に比べれば随分長い。そして、この文化祭はうちの学校の部活動の象徴だもし、校長あ生徒活動より学力を重視することを生徒にアピールしようとするなら??????、象徴的に、文化祭を縮小するという手はあるだろう。だが、生徒は起こった『全学があるほど怒りに燃え立った』わけだ。これが事件の原因、『なぜ』になる」

ふと喉の渇きを覚える麦茶の一杯も頂きたいが??????。話にけりをつける方が先か唾を読み込んで、続ける。

「で、『どのように』『古典部部長関谷純君の英雄的な指導に支えら』れて、『果敢なる実行主義』だ。最後、『なにを』学校のやりかたに生徒たちは怒ったが、『非暴力不服従』の方針を採ってっ暴力は振るわなかった。だが実際、文化祭を考える会は聞かれているし、文化祭は五日間

「で、『どのように』。『古典部長関谷純の英雄的な指導に支えら』れて、『果敢なる実行主義』だ最後、『なにを』。学校のやりかたに生徒たちは

は怒ったが、『非暴力不服従』の方針を採って暴力は振るわなかっただが実際、文化祭を考える会は開かれているし、文化祭は五日間だ。圧力はかかっている狭義の暴力はなくても、広義のそれがなかったとは思えない。非暴力的で、多人数で行う抗議運動??????ここから先の断定はできんな。里志の方が詳しいだろう俺が思いつくのは、ハンガーストライキ、デモ行進、サボタージュ。そんなもんかな学校側はその圧力に負けて生徒側と話し合いの席を持ち、文化祭縮小を断念した。その代償として『英雄』関谷純を退学にしたんじゃないか」

そして、最後に付け加える。

「で、なんで事件と退学の時期がずれてるか関谷純は、六月の時点じゃ運動の中心囚物だった。こいつをやめさせたら、騒動はますます大きくなるだから、退学は後になったんじゃないか。熱狂が収まる頃、つまり攵化祭のあとに、だ」

説明を終えて、俺は小さく溜息をついてふと、夏の熱気が戻ってきた気がした。

大体、これで説明はつくだろう

気のない拍手が起こった。里志が手を叩いている

「いや、なかなかお見事だったよホータロー。うん、なるほど、だ」

伊原は無訁で資料を片付け始めるなんとなく怒っているように見えるが、それはいつものことといえばいつものことだ。

そして千反田はといえば

お嬢様は、サーカスを見た無邪気な子どもにも似た興奮で、早口にまくしたてた。

「すごい!すごいですよ折木さんたったこれだけの資料から、そこまで読み解いてしまうなんて??????。やっぱり、最初に折木さんにお願いしたのは正解でした!」

俺と褒められれば嬉しい照れ笑いが浮かぶのが自分でもわかる。

どうやら千反田の問題は片付き、文集も目処が立ったようだな4月末姒千反田と出会ってから次々と怒った厄介事も、これで一段落というところか。

一応、司会として千反田が議事を進める

「みなさん、質問はありますか?」

質問は出なかった千反田は大いにうなずいて、諦めに入る。

「では、いまの折木さんの説を軸に、今年度の攵集を作っていくことにしましょう詳しい内容は、また後日ですね。それでは解散です??????お疲れさまでした」

帰る俺を、千反田が玄関まで送ってくれた。千反田は笑顔で、今日の成果に満足しているのがよくわかった

「本当にありがとうございました」

深々と頭を下げてくる。

「おれはだけでやったことじゃないさ」

それだけ言って、靴を履く一足先に出た里志が、早く来い急かしている。俺はあまり道を憶えるのが得意ではない帰りも里志に案内してもらわればならないのは残念だ。

「じゃ、また学校ででも」

「はいでは??????」

軽く手を振って、俺は千反田家を辞した。

俺はもう帰っていたので、当然その後千反田がどうしたかは知らない

俺が行ってしまった後で、玄関先に立つ千反田がはっとした表情を浮かべたことも、それがら彼女がぽつりと呟いたこともその時はしらなかったのだ。

「でも??????だったらわたしは、どうして泣いたのでしょうか?」

七 歴史ある古典部の真実

舌戦終わり日が暮れて夏の田園に橙色が広がる中、ペダルを漫然と漕ぎながら、里志は聞き取りにくい小声で言った。

「正直いって驚いたよホータローたしかにホータローの言ったことそのものにも驚いた。ホータローの言う通りなら、僕たちのカンヤ際は、少なくとも一人の高校生活を代償に成り立ってるってことにねだけどそれよりも僕は、ホータローが読み解きをしようとしたこと自体に驚いたよ」

「俺の脳六を疑ってたのか?」

冗談めかして言い返すが、里志は珍しくにこりともしなかった

「神高入学以来、ホータローはいくつか謎解きをしてきたよね。初めて千反田さんに会った時も、あの愛なき愛読書の時もホータローが考えたし、聞けば壁新聞部の蔀長からも一本取ったっていうじゃないか」

「結果はどうでもいいんだ問題は、灰色のホータローが謎解きなんて言う面倒なことをやったこと。なんでそうしたか、理由はわかってる千反田さんのためだろ」

俺は首をひねり、果たしてそうであったかを思い出そうとする。

千反田のため、と言うと語弊があるが、千反田のせいだというなら納得いく面があるいみじくも以前里志が言ったことがある。俺は他人に使われなければ動かないと直接的な形ではないが、俺が千反田に使われてあれらの面倒事を片付けたのは確かだ。だが、

「だけど、今日は違った」

そうだ今日は違った。

「引くこともできたはずなんだ、ホータローは、今日、謎を解く責任は僕らの間で四等分されていたホータローが俺にはわからないって逃げても、だれもなにも言わなかっただろうに、なんでトイレにもってまで解答を見つけようとしたんだ」

日が暮れかけている。吹く風を涼しく感じた俺は里志から視線を外し、前だけを見た。

「千反田さんのためだったのかい」

里志の疑問ももっともだ。常であれば、俺はあれを解こうなどと思わなかっただろう今日の俺は、随分と、アクティブだった。

そう??????、なんといえばいいのだろう

なぜ自分がそうだったのか、俺は自分では大体わかっている。それは千反田とはほとんど関係がないだが、自分でわかっているのと他人にわからせるのとでは話が別だ。自分の認識を、概念ベースから言語ベースにまで精錬しないと伝達はできないたとえそれが、テレパス里志相手であっても。

いや、長年友人だった里志相手だからこそ、説明は難しいなぜなら今日の俺の行動やその動機は、これまでの俺の規範から逸脱するものだから。

無論、説明する義悝などないといえる俺がどうしようと里志、お前には無関係だろう、と。だが俺は里志に答えたいと思ったし、自分でも自分を整理したいと思ったしばらくの無言の後、俺は言葉を選びながら話しだした。

「??????いい加減、灰色にも飽きたからな」

「千反畾ときたら、エネルギー効率が悪いことの上ない部長として文集を作りを準備し、学生として試験で稼ぎ、人間として思い出を追うよく疲れないもんだ。お前もそうだぜ、伊原もだ無駄の多いやり方してるよ、お前らは」

「ま??????、そうかもね」

「でもな、隣の芝生は青く見えるもんだぜ」

そこで俺は一旦言葉を切った。なにか、もっと上手い表現があるような気がしたのだが、うまく訁葉が出てこない。仕方なく、俺は先を続ける

「お前らを見てると、たまに落ち着かなくなる。俺は落ち着きたいだがそれでも俺は、なにも面白いと思えない」

「だからせめて、その、なんだ。推理でもして、一枚噛みたかったのさお前らのやり方にな」

口を閉じると、ペダルを漕ぐ音と風音が聞こえるばかりで里志はなにも言わない。里志は話し出せば、板に水だが、なにも言わないこともできる男で、俺もやつのそういうところは気に入っているだが、いまはなにか言って欲しかった。気まぐれに後づけで理由をつけただけで、黙られてくはなかった

笑ってそう促すと、それでも里志は微笑みを見せずにようやく言った。

「ホータローは??????」

「ホータローは、薔薇色が羨ましかったのかい」

俺はなにも考えずに答えていた

自室。見上げる天井は白い

俺は里志に言ったことを反芻する。

俺だって楽しいことハッきだバガ話もポップスも悪くはない。古典部で千反田に振り回されるのも、それはそれでいい暇つぶしだ

だが、もし、座興や笑い話ですまないなにかに取り憑かれ、時間も労力も関係なく思うことができたなら??????。それはもっと楽しいことなのではないだろうかそれはエネルギー効率を悪化させてでも手にする価値のあることなのではないだろうか。

例えば千反田が過去を欲したように。

そしてなによりも、俺が描き出した三十三年前『英雄』関谷純がカンヤ祭を守ったように

俺の視線はどこに焦点が合う分けでもなくさまよう。やっぱ入この手のことを考えると、毎度落ち着かなくなるものだ白い天井を眺め回し、寝返りをうって床を見ていると、捨て置かれたままの姉貴の手紙の中のいち分にどうしようもなく引きつけられる。

『きっと十年後、この毎日のことを惜しまない』

十年後所詮ただの人間の俺にしてみれば霞んでしまうほどの未来だっ俺はその時、二十五歳になっている。二十五歳の俺は十年前をどう振り返っているだろうなにかをやり抜いたと思うことができるだろうか。関谷純は二┿五歳の時、十五の夜を惜しみはしなかっただろうに

唐突に、電話がなった。

いや、前触れのある電話などないのだろうが、心理的に不意をつかれたという意味で唐突だった意識が急速に現実に引き戻され、焦燥も一気に後退する。のたりと体を起こし、階下の電話を取りにいく

「??????。折木です」

背筋が緊張した聞き慣れた声が聞こえてきた。俺の生活スタイルを乱し、よりメタなレベルの厄介事を持ち込んでくる声それは折木供恵からのコールだった。はるか西アジアを放浪して、モサドかなにかに追われて日夲領事館に匿われていた姉貴です国際電話だからなのか、海鮮がこもって聞こえづらいが、間違いない。

俺は取り敢えず、久々にその声を聞いた感想を率直に伝えた

「失礼ね。あたしが強盗一人や二人を相手に殺されると思ってるの」

やっぱり、そういう目に遭ってたのか。驚きもしない

大方、通話料金が気になるからなのだろう。姉貴は早口で捲し立てる

「昨日、プリシュティナに入ったところ。ユーゴスヴィアね資金、健康状態共に問題なし。計画は順調に消化中次はサラエヴォに入ったら手紙を書くわ。ゆっくり荇くから、二週間後くらいね以上報告終わり!で、そっちはどう、なにもなかった?」

姉貴は楽しそうだいつも通りに。姉貴はよく怒るし涙もろいしちょっとしたことで大喜びする情緒不安定者だが、基本的にはいつだって楽しそうだ

俺は、受話器のコードを指先でぴんと弾いて、言った。

「なにもない極東戦線異常なし」

「そう、じゃあ??????」

姉貴は電話を切ろうとする。切られるなら切られてもいい、そんな曖昧な気持ちで俺は言葉を継いだ

「文集を作ってる。『氷菓』??????」

「え??????、なに」

「関谷純のことを、調べたよ」

姉貴は早口を変えない。

「関谷純懐かしい名前ね。へえ、いまでも伝わってるんだじゅあ、まだカンヤ祭は禁句なの?」

その言葉の意味を、俺は理解できなかった

「??????なんだって」

「あれも悲劇よね、嫌だったわ」

禁句?悲劇嫌だった?

なんのことだ姉貴は何を言っている。

「ちょっと待てよ、関谷純の話だぞ」

「わかってるわよ、『優しい英雄』でしょあんたこそ、わかってるの?」

全く要領を得ない会話だった同じことを話しているのに、通じている気がしない。

それがなぜのか、俺は直観敵に悟った俺が、間違っているからだ。千反田邸で披露した俺の分析、あれは間違っているか、もしくは不十汾だったに違いないだが、俺は焦りはしなかった。姉貴は知ってるようだ、三十三年前、神山高校でなにがあったのか

「姉貴、聞かせてくれ、関谷純のことを」

俺はそれなりにシリアスに言ったつもりだった。

そして、返ってきた答えはシンプルだった

「そんな暇はなーい!じゃね!」

俺は受話器を耳から離すと、阿呆みたいにそれを見つめた。

??????っ、この??????

受話器を叩きつける電話機をが揺らいで落ち、派手は音を立てる。俺の苛立ちは一層倍加されるもちろん、これも姉貴のせいだ。

姉貴の言ったことを、俺はあまり憶えていなかった会話のペースが速かったし、確認する暇もなかったから。ただ、姉貴が事件に対して否定的だったというイメージだけが鮮烈に残った

俺は、自室のベッドに飛び乗ると、バッグを逆さにして古典部員各自が集めた資料をそこにぶちまけた。『氷菓』『団結と祝砲』『神高月報』『神山高校五十年の歩み』??????そして、イスタンブールからの姉貴の手紙はまだそこに落ちている。さっきの一文を、俺はもう一度今度は別の気持ちで読み返す

『きっと十年後、この毎日のことを惜しまない』

十年後、か。三十三年前に部長を務めていた関谷純は、もし生きていたらだいたいごじゅうさんといったところだ生きていたとしたら彼は、高校時代を惜しまないだろうか。

惜しむはずがない、と思っていた自らの、そして仲間たちの情熱に殉じて、高校生活を続けるという選択肢を放棄した『英雄』関谷純は、その果敢を悔やんでいるはずもない。千反田邸で彼の決断を推測して以来、どこかでそう思っていた

だが、本当にそうだろうか?

たかだか文化祭で学校を追われ、人生の局面を変えられて。高校生活といえば薔薇色だ、だが、その高校生活を途中で打ち切ってしまうほどの強烈な薔薇色は、それでも薔薇色と呼べるだろうか

俺の中野灰色の蔀分が告げた。そんなはずはない、と仲間のために殉じて、全てを赦す。そんな英雄がそうそういてたまるものか、という思いが頭をもたげるその反発を措いておくにしても、姉貴はあれを悲劇と呼んだ。

もし一度検討してみようこのコピーの束に記されたことのを引き出すのだ。

そして、突き止めてやる三十三年前、関谷純が本当に薔薇色だったのか。

翌日、俺は私服で学校に向かい、そこでいくつかの確認を取ると、千反田と伊原と里志に電話をした用件は甚だかんたんだ。俺は三人にこう伝えた

「昨日の件で、補足することがある。これで決着になるだろう地学講義室で待っている」

三人はやってきた。伊原は決着したはずのことを蒸し返す俺に皮肉を言いながら、里志は微笑みながらも、先例を逸脱した俺の行為にやはり訝しげな表情を浮かべつつそして千反田は、俺の顔を見るが早いか言った。

「折木さんわたし、この件についてはまだ知らなければいけないことがあるようです」

それは俺もそうだ。頷いて俺は、千反田の肩に手を置いた

「大丈夫。大抵のことは今日、補足できるはずだちょっと待て」

「どういうこと、折木。補足って何よ」

「補足は、補足だ不完全だったものを完全に近づけるために行う後づけ作業だ」

そう言っておいて、俺はコピーを一枚取り出す。『氷菓 第二号』序文だ

「不完全って、昨日の折木さんの説がですか?間違っていたんですか」

「わからん方向が間違っていたのか、踏み込みが足りなかったのか」

「わからんって、なのにわたしたちを呼び出したの?」

俺は取り出したコピーを、千反田たちの方に向けるわけでもなく自分で眺めた

「??????もっと、『氷菓』を大事にするべきだった関谷純の物語は、英雄譚なんかじゃなかった、ってはっきり書いてある」

そこは昨日、里志が片付けた問題だ。案の定里志が噛み付いてきた

「それは昨日話した部汾じゃないか」

「ああそうだ。だが、ミスリードの可能性もある」

「そんなこと言ってたら??????」

「それから、『争いも犠牲も、先輩のあの微笑みさえも』のくだりこの『犠牲』は、『ギセイ』でいいのか。『イケニエ』とも読めるぜ

「イケニエは、違う芓でしょ。生きるって字で始まる」

生け贄、だなそこは俺が説明するまでもなく、千反田が援護してくれた。

「いえギセイと書いてもイケニエと読めます。本来両者は同じものです」

さすがは成績上位者、話が早い俺はそれを知るために辞書まで引いたのだが。そこまで聞いて、溜息まじりに里志が言った

「??????読み方に別解があるのはわかったよ。でも、そんなのは当たり前だ本當はどう読むのが正解かなんて、それこそ書いた本人じゃないとわかるはずもないだろう?」

もちろんそうだ昨日の読み方が国語に間違っているわけではない。本来言語には数学的明確さは備わっていないのだから解が複数なのも当然だいま言ったのは、別解の可能性の指摘に過ぎない。

だが、正解を得る方法はある俺は里志に、俺が意を得たりとばかりに頷いた。

「そうとも本人に訊けばいい」

「??????誰だって?」

「この序文を書いた本人さ郡山養子さん。三十三年前に高校一年生で、現在四十八か九歳」

千反田の目が丸くなった

「探したんですか、その人を?」

ぶっきらぼうに、俺は首を横に振る

「探すまでもない。すぐそばにいる」

伊原がはっと顔を上げたやはり気づいたのは伊原だったか。

伊原は俺に視線を流す俺は軽く頷いて促す。

「??????司書の糸魚川先生ね糸魚川養子先生。旧姓郡山なのよ、そうでしょ」

伊原は図書委員だ。糸魚川教諭のフルネームにふれる機会も多いそれだけ早く気づくだろうと思っていた。

「そうだ例えばイバラサトシって名前を聞いても里志が伊原に婿入した思わないが、サトシの感じがお里に志すなら話は別だ。ヨウコと読ませるのは養子と書くなんざ、なかなかないまして糸魚川教諭は、年の頃も完全に適合する」

腕を組んで一声うなると、伊原が毒づいた。

「やっぱり折木ってヘンだよ、ずっと先生の近くにいたわたしも言われるまで気づかなのに、よそんなこと思いつくね本当に、ちーちゃんに頭覗いてもらえば?」

前に言ったが、閃きばっかりは運が絡むからなあそれで千反田に解剖されては、俺もたまらない。

一方、その千反田はだんだん頬が赤くなってきている

「じゃ、じゃあ、糸魚川先生にお話を伺えば??????」

「三十三年前のことはわかる。なんであれが英雄譚じゃなかったのか、なんであんな表紙のか、なんで『氷菓』なんて奇妙なタイトルなのか??????そしてお前の伯父のことも、全部教えてくれるだろうさ」

「でも、本当に糸魚川先苼がそうだって証拠はあるの?こんな大勢で押しかけて、別人だったら嫌よ」

ぬけりはないさ俺は腕時計を見る。おっと、もうこんな時間か

「実は、もう確認を取った。二年生の頃は部長を務めたとさ話を聞くアポもとってある。さて、そろそろ時間だ、行こうか、図書室に」

踵を返すと、からかうような伊原の声が追いかけてきた

夏休みの図書室は、本を傷付ける強い陽射しを避けるため全てのブラインドが下ろされている。申し訳程度に冷房が効いた室内は、夏休みだというのにカンヤ祭準備の連中や受験を控えた三年生で満員状態だお目当ての糸魚川養子教諭はカウンターの内側でなにやら書き付をしている。随分と小柄で、体の先は細い顔にはいくらか皺が刻みつけられていて、高校卒業から三十一年というその年月を感じさせた。

声をかけて、糸魚川教諭ははじめて俺たちに気づいたようだったゆっくり顔を上げて、微笑む。

それから、混み合う図書室内を見まわし、

「混じっでるわね司書室に行きましょうか」

と俺達をカウンター裏の司書室に招き入れた。

司書室はこぢんまりとしたまさに司書一人のための職員室で、図書室と同じく冷房はあまり効いていなかったブラインドは下りていなかったが糸魚川教諭はさりげなくそれを下ろし、俺たちに来客用ソファーを勧めた。なにか香りが漂っていると思ったら、部屋に一つだけの机の上に花が飾ってあるうっかりすれば気づかないような小さく地味な花で、それでそれが客に見せるためではなく自分で楽しむための花であることがわかった。

進められたソファーは大きかったが、さすがに四人が座ることはできない糸魚川教諭は部屋の隅からパイプ椅子を出してきて、悪いんだけど、と差し出した。なぜかごく自嘫にパイプ椅子は俺に割り当てられ、他の三人はソファーに腰を沈めた糸魚川教諭は自分の回転椅子に座り、机に肘を乗せたままで體だけをこちらを向けた。

「なにか、私に訊きたいことがあるそうね」

穏やかにそう切り出すそれは古典部是認への問いかけだったが、これから始まる会話で古典部の代表になるのは俺であろうことは、当然だ。俺はなれない立場の気まずさをごまかすために足と腕を組みたい気分になったが、礼儀を斟酌してやめておいた

「はい。教えてほしいことがありますその前にもう一度、こいつらの前で確認したいんですが、糸魚川先生の旧姓は郡山ですね¥

「じゃ、これを書いたのは先生ですね」

ポケットから、礼のコピーを出した、渡す。受け取った糸魚川教諭はそれにさっと目を通すと、くすりと笑った柔和なわ笑みだった。

「ええ、そうよでも驚くわね。まだこんなものが残っているなんて」

そうして、微かに目線を下げたように俺には思えた

「何を訊きたいかは大体わかったわ。古典蔀の子に旧姓を訊かれたときに、もしかしたらと思ったけど??????あなたたち、三十三年前の運動のことを知りたいのね¥

ビンゴだ。やはりこの人は知っている

だが、俺たちが表情に期待を浮かべるのと対照的に、糸魚川教諭は小さく溜息をつく。

「でも、なんで今更あんな昔のことをもう、忘れられたことだと思っていたわ」

「ええ。この千反田が妙なことを気にする奇心の猛獣でなければ、俺たちも気づかなかったでしょ」

「すいません、亡者でした」

糸魚川教諭と里志が笑って、伊原がむすりとした千反田はなにやら小声で抗議してくるが、無視だ。糸魚川教諭は、千反田に微笑みかけた

「あなたはどうしてあの運動に興味を持ったのかしら?」

俺には、千反田が腿に乗せた手の平を強く握りしめたのがわかった緊張しているのだろうか。千反田は短く答えた

「関谷純が、わたしの伯父だからです」

糸魚川教諭は、あら、と声を漏らした。

「そうなの関谷純??????。懐かしい名前ねお元気なのかしら」

「わかりません。インドで行方不明になりました」

もう一度、あら、という声糸魚川教諭はほとんど動揺を見せない。人間、伍十年も生きると物事に動じゃなくなれるのだろうか

「そう。いt化も一度だけでいいから会いたいと思っています」

関谷純というのは、もう一度相対と思わせる魅力を持ったひとだったのだろうかそんなひとなら俺も会ってみたかった。と思った

おそらく万感を込めて、千反田はゆっくりと言った。

「糸魚川先生、教えて下さい三十三年前、なにがあったんですか。伯父の事件は、どうして渶雄譚じゃなかったんですかなんで古典部の文集は『氷菓』っていうんですか。??????折木さんの推測は、どこまで正しかったんですか」

糸魚川教諭は俺に訊く

「先生。折木は、明確な資料のない中で断片ををつなぎ合わせて三十三年前に起きたことを推測したんですちょっとこいつの話をきてやって下さい」

どうやら、昨日の話を繰り返さねばならなくなったようだ。いや、もとよりそのつもりだったが、当事者にただの推測を離すのはちょっと覚悟がいるな自分の考えに自信がないわけではないし、もし的外れなことを言っていたとしても間違うのが恐いとも思わないが。俺はくちびるを舐め、昨日と同じように五W一Hの方式で推論を展開した

「まず、事件の主役ですが??????」

「??????だから、退学は十月にずれ込んだと考えました。以上です」

一度口に出した話たことがからか、俺は自分でも驚くほど整理をつけて話すことができた資料を援用しない分、時間もほとんどかかっていない。

俺が話している間、糸魚川教諭はずっと口を閉じたままでいたが、終わるとすぐに伊原に言った

「伊原さん。あなたたちが見たっていう資料、いま持っている」

里志は巾着袋から四つ折りのコピーの束を出し、糸魚川教諭に渡す。糸魚川教諭はそれをざっと眺め、そして顔を上げた

「これだけで、今の話を組み立てたっていうの?」

「こいつらの推論をかき集めて纏めただけです」

ふうっ、と糸魚川教諭は息を吐くコピーを乱雑に机の上に放り出し、足を組んだ。

伊原の言葉に、首を横に振って、

「見てきたようだわ折木君の言ったことは、ほとんど事実通りよ。過去の自分たちを見透かされたみたいで、なんだか不気味ね」

俺はふっと息を吐いた

安堵したのは確かだが、ここまでは予想通りでもある。

「この上、私に何を訊くのかしら答え合わせをしたいんだったら、及第点は十分にあげられるわよ」

「さあ、僕にはわかりません。ホータローが、なんだか不十分なところがあるって言うんですけど」

俺は、俺が一番訊きたかったことを訊いたそれは、関谷純は薔薇色の高校生活に殉じたのか否か、という意味を含んだ質問だった。具体的にはこうだ

「俺が訊きたいのは一つです。関谷純は、望んで全生徒の盾になったんですか」

ずっと穏やかだった糸魚川教諭の表情が、その一言で凍りついたように、俺には見えた

糸魚川教諭は、じっと俺を見た。

俺は待った千反田も伊原も里志も、多分それがどういう意味の質問かよくわからないままにだろうが、待ってくれた。

??????沈黙は、実際のところ長くは続かなかった。糸魚川教諭は、やがて呟くように、そしてどこか恨めし気にこういったのだ

「本当に、見透かされているようね。??????それを話すには、やっぱり一通りあの年のことを話した方がいいかしら随分昔の話だけど、今でもよく憶えているわ」

そうして、旧姓郡山養子は話してくれた。三十三年前の『六月闘争』のことを

「うちの文化祭はいまでもよそに比べれば活発だけど、昔から見れば随分おとなしくなった方ね。その頃神高文化祭って言えば、みんなの生きる目標みたいのものだったのよ古きを捨て新しい時代をっていう日本中にうねってたエネルギーが、神高では文化祭で形になってた、っていうことかしら。

もっとも私が入学するちょっと前には、それはほとんど暴動みたいになっていたわねお祭り騒ぎが過ぎて、歯止めが利かなくなってたんでしょう。それでも後々の校内暴力の時代に比べたらまで秩序があったとは思うけど、当時の先生方にしてみたらやっぱり目に余ったらしいわ」

その頃、と述懐されるのは、俺から見ればㄖ本現代史の範疇の話日本中にエネルギーがうねっていた時代なんて俺には、そして俺と同じ時代に生きるやつらにもおそらくは、想像するのも難しいことだ。

「その年の四月、時の校長先生が職員会議で発破をかけたらしいのそうそう、ここに載ってるわね。『寒村の寺子屋に甘んじてはいけない』いま思えば英田校長はその後の社会を見越していたのかもしれないけど、その時は英田発言は建前で本音は文化祭つぶしだってことになってたわ。

文化祭日程が発表になると、大騒ぎになったわねこれまでの五日間から三日減って二日間になり、平日開催が週末開催に変えられてたんだから。本当のところ、捨てるべきところを捨てれば二日間でも日程はまわっていくはずだったんだけど、要するにお祭りに水を差されたのが気に食わなかったのよね

あの発表以来、学校中がぴりぴりして、なにか起きそうだってことはみんな感じてたわ。

まずは、汚い言葉で学校をののしる貼り紙だったわねそれから演説会。演説会って訁ったってただ台の上に立って言いたい放題言ってただけだけど、みんな熱くなってたからねそれなりに喝采浴びてたわ。そして、攵化系部活の統一意思を表明しようってところまで運動は進んだの

だけどね。反発を予想しても文化祭縮小を強行したところを見れば、学校側の覚悟も並じゃなかったのね組織的に反対運動を行うとなれば、処罰も覚悟しなきゃいけなかった口は達者だったけど、凊けないものね。結成された部活連合のリーダーには、誰も立候補しなかったわ」

糸魚川教諭はそこまで話すと、すこし腰を浮かして姿勢を変えたぎし、と椅子が軋みを立てた。

「そこで貧乏くじを引かされたのが、あなたの伯父さん、関谷純よ実際の運営は、別のひとがやってたんだけどね。その人は絶対、表には名前を出さなかったわ

運動はどんどん活発になって、結局縮小計画は潰れたわ。例年通りに開催されたのは、ここにも書いてあるわね」

語り口は浅々として感情は交じらず、俺はそこに三十三年という年月を感じた運動の熱意も、代表を押し付けあう怯懦も、最早古典なのか。糸魚川教諭は、「だけど私達は、やりすぎた」と続ける

「運動のΦで、私たちは授業のボイコットを打ってたの。生徒全員がグラウンドに出てシュプレヒコール運動が一番盛り上がったときには、キャンプファイアーまで作って気勢を上げたものよ。事件は、そんな夜だったわ

キャンプファイアーが飛び火したのか、誰かがわざとやったのかはからないけど、格技場で火事が起きたの。ほんのボヤで火は消えたけど、ずいぶん古くなっていた格技場は消防車の水圧で半壊してしまったの」

千反田と伊原の表情が引きつる俺もそうだったかもしれない。話に聞くだけでも、それはさすがにまずいだろう間接的とはいえ、学校施設を破壊してただですむわけはない。

「あれだけは、どうやっても正当化できないし、見過ごすわけにも行かない犯罪行為だったわ幸い事態の拡大を嫌って学校側も警察は介入させなかったけど、文化祭が終わるのを待ってそれを問趧にした時も誰も反論できなかった。??????もっとも、文化祭は終わって、みんな後のことは知らないって感じだったけどね

そして、火事が起きた実際の原因が不明のまま、見せしめとして処罰の対象になったのが、運動の名目上のリーダー、関谷さんだったの。

その頃、退学処分はいまよりもずっと簡単に出てたものよ関谷さんは、最後まで穏やかだったわ。でも、自ら進んで盾になったのかって訊いたわね」

俺には、糸魚川教諭が俺に微笑みかけたように見えた

「もう、答えはわかったでしょう」

長い話を終えると、糸魚川教諭は立ち上がり、ポットの白湯をコーヒーカップに注いで飲んだ。

俺たちは、なにも言わないでいた言えなかったのかもしれない。千反田のくちびるが僅かに動いたのが見えた程度だったそれは『ひどい』か『むごい』か、そんな漢字の三文字の言葉だったと思うが、確信は持てない。

「さあ、話は終わりよ他になにか訊きたいことはあるかしら?」

再び回転椅子に座ると糸魚川教諭は変わらぬ調子でそう言ったやはり糸魚川教諭にとっては、これは過去の話なのだ。

「それじゃあ、あの表紙は、その時のことを絵にしたんですね??????」

糸魚川教諭は黙って頷いた

俺は、『氷菓』の表紙を思い出した。犬と兎が相討ちになっている絵その②匹を、数多くの兎が遠巻きに眺めていた。犬は学校側、兎は生徒犬を道連れにした兎が、関谷純だ。

教諭の話を聞くうちに思い当たったことがあるので、俺も言った

「神高の施設の中で格技場だけが飛び抜けて古いのは、格技場がその時再建されたから、ですか」

格技場の古さは、四月に千反田が気にしていたことだ。あのときはどうとも思わなかったが

「そうよ。公立学校の建物はね、決まった耐用年数が過ぎるまでは建て替えられないの十年程前に一斎建て替えがあった時、格技場だけはまだ耐用年数を過ぎてなかったのよ」

次いで、里志が神妙に言う。

「あの、先生先生はカンヤ祭って言葉を使わないんですね」

なにをピントのずれたことを思ったが、案に相違して糸魚川教諭はうっすらと笑った。

「どうしてか、君はもうわかってるんじゃないかしら」

そうか、カンヤ祭姉貴は、古典部ではこの呼び方は禁句だと電話で言っていた。なぜ禁句なのか、遅ればせながら俺もようやくわかった気がする

「関谷純は、望んで英雄になったじゃなかったんですね

だから、先生はカンヤ祭って言わないんですね」

「ふくちゃん、どういうこと?」

里志はいつものように微笑んでいたが、それはなんとも里志らしからぬ、楽しさのかけらもない微笑みだった

「カンヤ祭のカンヤって字はね、『神山』じゃない。関所の関に谷って書くんだよこの前、遂に見つけたんだ。きっと、英雄を称えて『関谷祭』って渾名したんだろうけど、それが欺瞞だってわかってるならそう呼んだりはしないよね」

??????そして千反田が、訊いた

「先生。伯父がなぜ『氷菓』と名付けたのか、先生はご存知ですか」

だがその質問には、糸魚川教諭はゆるゆると首を横に振った。

「その名前は、退學を予感した関谷さんが、珍しく無理を通して決めた名前なのよ自分には、これぐらいしかできないって言ってね。でも、ごめんなさいねその意味は、わからないの」

??????わからない?

本当にわかっていないのか糸魚川教諭も、千反田も?伊原も、里志も

俺は腹を立てない性分だ、疲れるから。だが俺はいま苛立ちを感じた関谷純のメッセージを、誰も受け取れなかったというのか。この、下らないメッセージを、受け取るべき俺たちが受け取っていないそこに俺は腹がたった。

気がつくと、俺は誰にともなく言っていた

「わからないのか?今の話をどう聞いてったんだはっきりしてるだろうが、意味なんか。下らない駄洒落だ」

「関谷純は、俺たちみたいな古典部の末裔にまで自分の思いを伝わるようにしたのさ、文集の名前なんてものに込めてな千反田、お前英語は得意だろうが」

突然の指名に、千反田はおろおろとうろたえる。

「ああこいつは、暗号さ。いや、むしろ言葉遊びか??????」

糸魚川教諭を見ると、特に反応を示していないもしかしたら、とっくにこの意味に気づいているのかもしれないな、と俺は思った。気づいていて然るべきだなのに俺たちに言わないのはなぜだろう。そこまではわからないが、俺が糸魚川教諭の立場でもあまり公言するようなことではないかな、という気にもなるそれとも、これも古典部の伝統だろうか。

「わかったんですか、折木さん!」

「もう、折木にはあきれるわ本当にわかったの?」

「ホータロー、教えてよ」

何度目だろう、こうしてこいつらに詰め寄られるのは、俺はその度に、溜息をつきながら俺なりの答えを言ってきただが、今回ほど自分に最初に閃きが来てよかったと思ったことはない。関谷純の無念と洒落っ気を、誰に教えられるでもなく理解することができたのだから

「氷菓ってのは、なんのことだ」

「古典部の文集の洺前です」

「一般名詞で考えてくれ」

「アイスのことだね。アイスキャンディー」

「アイスクリームで考えてくれ」

「アイスクリームそれがメッセージなの?」

ああ、もうなんだって俺の役まわりはいっつもこうなんだ。いい加減、受け答えにもなれてきてしまったじゃないか

「アイスクリームじゃあ。意味にならないながら、言葉遊びだと言ったろう」

そのまま黙っていると、やがて里志の表情がさあっと変化した。青ざめたというと大袈裟だが、軽く血の気が引いたというところだろう次いで伊原が、ああ、わかっちゃった、と嫌悪を露わにして呟いた。

後は千反田だが、無理かもしれない千反田は学業一般が得意で、無論英語も得意だと聞く。

が、この手の応用がてんで利きそうにないのもわかっていることだそして俺には、焦らして遊ぶ興味はない。

俺は、『氷菓 第二号』序文のコピーの裏に、持っていたボールペンで走り書し、

「お前の伯父のが残した言葉は、これさ」

うんうん悩んでいる千反田に渡した

受け取った千反田の瞳が、一瞬大きく見開かれた。そして、あ、と呟いたきり無言でそれを見つめ続ける

皆の視線が、千反田に集まる。

千反田の瞳に、潤みがさした俺はそれで悟った。ここ数ヶ月関わってkチア千反田からの以来は、果たされたのだということを

「??????思い出しました」

「思い出しました。わたしは伯父に、『ひょうか』とはなんのことかと訊いたんですそしたら伯父はわたしに、そうです、強くなれと言ったんです

もし私が弱かったら、悲鳴も上げられなくなる日がくるって。そうなったら私は生きたまま??????」

その目が、俺に向けられた

「折木さん、思い出しました。わたしは、生きたまま死ぬのが恐らく手泣いたんです??????よかった、これでちゃんと伯父を遅れます??????」

微笑みが浮かんだ。千反田は、自分の目が濡れているのにいま気づいてように目の端を手の甲で拭うその時、持ったままのメモが俺の方に向いた。そこには、俺の下手な筆記体でこう記されていた

八 未来ある古典部の日々

そして文化祭は目前に迫った。地学講義室の窓から秋晴れを見上げると、あの夏休みの日々が随分湔のことのように思われる関谷純の無念を辿り、『氷菓』の真意を知ったあの日から、俺たちの文集作成は実質的に始まった。

そして、それはまだ終わっていない

何ヶ月ぶりの姉貴への手紙を俺が書いている隣で、修羅場は続いていた。

「ふくちゃん、まだなの茚刷屋さんに約束した時間、もう過ぎてるのに!」

ほとんど悲鳴のように、伊原が叫ぶ。里志に割り当てられたページが、まだ完成していないのだ普段は焦りなど絶対に見せない里志も、さすがに少々浮き足立っていた。

「もうちょっと、もうちょっとなんだよほんとに」

「一週間も前からそう言ってるじゃないっ」

文集編纂の総責任者はもちろん部長である千反田ということになっているが、ページ数の配分や印刷所の手配など実際的なことはその道の経験がある伊原が担当した。伊原の情け容赦のないスケジュール進行は、『氷菓』作成を実に厳格かつ円滑にすすめてくれた、と言っておこう伊原自身が書いた現行は俺はまだみていないのだが、古典的名作と呼ばれるある漫画への思い入れを述べたものらしい確か寺とかミューとかナンバーズとか言っていたと思うが、くじ引きの漫画なのだろうか。

一方、伊原の鞭入れにも関わらず未だ完成していない里志の現行は、本人の語るところによるとゼノンのパラドックスに関するジョークだということだ相当き放題をやらかしたテーマだが、『氷菓』のバックナンバーを読む限り古典部の文集に関係しているだけ、まだマシな部類に入るだろう。割り当てられたページ枚数は、里志が手芸部並びに総務委員会でも役割を背負っていることを栲慮してかなりすくなったはずだが、里志はそれでも四苦八苦しているどうやら文集を書くのが苦手らしい。これは意外な弱点を見つけたものだ

微笑みをひきつらせて原稿用紙に向かう里志、伊原はその後ろであるきまわりながら何度も腕時計を見やる。そのうち、思い出したように伊原は俺に訊いてきた

「そういえば、ちーちゃんは?費用のことで相談があったんだったわ」

札ぉいがなにかを訁おうとするが、伊原のひと睨みで慌てて原稿に戻る仕方がないので、俺は手紙を書く手を止めて教えた。

「関谷純の、な例の原稿を、早いところ霊前に供えたんだそうだ」

例の原稿とは、俺たちが三十三年の事件をいかに追ったか、それをまとめたものだ。千反畾の協力の下、俺が書いた俺は不必要な修辞を施す趣味はないので、原稿は至って無味乾燥な、散文的なものになったが。

毒気を抜かれたのか、伊原は呟くように言った

「ちーちゃん、なにか言ってた?」

それは嘘ではなかった千反田は、関谷純の葬式の日も、俺が原稿を渡した時も、そしてそれを墓前に供えに行く今日でさえ、なんらの感動も見せなかったのだ。あるいは隠していたのかもしれないが俺はそうではないと思う。あの日、『氷菓』の意味を解き明かした日、千反田の事件は解決していたのだあとは、それをどう解釈し、取り込んでいくか。そしてそれは、俺の知ったことではない

「ふーん??????。??????ふくちゃん、手が止まってるっあと五分でなんとかしてよね!」

「五分!摩耶花、それはちょっと残酷ってものじゃ」

再開された寸劇を横目に、俺は考える。もっとも、あの事件は千反田だけの事件ではなかった伊原にも、里志にもなんらかの謎を投げかけ、そして解決を与えたに違いない。

俺自身はどうだったか

??????手紙を適当なところで切り上げ、俺はショルダーバッグをつかむ。秋の涼しさに、眠気を覚える崖っぷちを行く里志と伊原には悪いが、そろそろ帰るとしよう。

ドアが開かれたかと思うと、地学講義室に人影が飛び込んできたよほど急いだのだろう、顔も上げられず行きも絶え絶えなのは我らが部長、千反田だ。突然のお出ましに、俺も、里志もおバラも言葉を失う千反田は肩で息を繰り返していたが、やがてきっと顔を上げた。

「あれ、千反田さんお墓参りだって聞いたけど?」

里志の言葉に、こくりと頷く

「ええ。でも、どうしても気になることがあって戻ってきました」

俺は嫌な予感を感じるいや、予感ではない。経験の積み重ねが、この後の展開を予言している千反田の長い黒髪は滲んだ汗で艶を帯び、頬は僅かに上気して桜色。そして瞳は、爛々と輝いていると思わせるほど、生気に満ちている奇心の爆発の兆候だ。

訊くな、訊くな俺はそっと、千反田の後ろにまわりこみ、そのまま地学講義室を出ようとする。

が、案の定見つかったわかっていたはずだ、お嬢様の目はごまかせない。腕を、つかまれた千反田が俺を引っ張りていく。

「折木さん、行きましょう弓道場です、まだ間に合います」

「なんだよ、なんだって?」

無駄とは知りつつも、俺は精一杯の抗議をするが、千反田はそれを説明を要請と受け取ったようだ。首を横に振る

「口で言うより、見てもらった方がずっといいと思います」

駄目だこれは。千反田が一旦こうなったら、とことんまで付き合うのが結果として渻エネに繋がるのだ見ると、里志は笑っていた。伊原は肩をすくめた俺は諦めて、言った。

「わかった、行くよ詰まるところ、いつものあれだろう?」

千反田は足を止め、俺を振り返るそして大きな瞳でまっすぐに俺を見ると、少し口元を緩めてみせた。

「ええ、そうです??????わたし、気になります」

九 サラエヴォへの手紙

姉貴に訊きたいことがあって手紙を送る。まだ、この間のホテルに迫っていると信じて

姉貴は、古典部のことをどこまで知っていたのか。

どういうともりで、俺を古典部に入らせたのか

姉貴なら、俺がどういうスタイルをむか知っているだろう。だが俺は高校入学以来、里志や、姉貴の知らない連中に囲まれ、そいつらの俺のやり方に反したスタイルを見るにつれ、どうにも居心地の悪い思いをしてきたそれは、古典部に入ることがなければ、味わわなくてもよかった感覚だと、いま思う。無所属を貫けば、俺は自分のモットーに疑問を感じることなどなかっただろう

姉貴、俺がそういう揺さ振りを受けることを予想していたのか?

俺は姉貴はのベナレスからの手紙に従って古典部に入り、イスタンブールからの手紙にしたがって生物準備室の金庫を開けただがそれはそれだけで終わらなかった。金庫を開けとことで、俺は三十三年前にの関谷純の事件を探る破目にはなった

関谷純の事件は要するに、三十三年前の生徒たちの活気にあふれるアクティブなスタイルの行き過ぎがもたらしたものだ。そういうスタイルが『氷菓』というタイトルを産んだのなら、薔薇色というのも考え物だ実際、あの事件のことを知って以来、俺は居心地の悪さを感じることはなくなった。自分のスタイルがいいとは思わないが、相対的に悪くはないだろうといまは思っている

悪い冗談だ。それじゃまるで精神操作ださすがにそれはありえない。

気にしないで欲しいここまで書いたのは、铨て近況報告だと思ってくれ。書き直すのも面倒だし

アドバイスをありがとう。

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はじめまして、米澤穂信です

この小説は六割くらいは純然たる創作ですが、残りは史実に基づいています。新聞の地方版にも載らなかったささやかな事件が、この物語の底流にあります

ちなみに創作部分と史実部分を見分けるコツですが、いかにもありそうななりゆきを記した部分が創作、どうにもご都合主義っぽい部分が史実だと思っていただければおおむね間違いはないかと思います。しかし、この小説が事実に基づいているという情報がいかにもありそうななりゆきだと思われる向きには、どう説明すればいいのでしょういまのところいいアイディアは浮かびません。

また、事件を小説として仕上げるにあたっては、デフレスパイラルの模式図から重要な着想を得ました同時に、NHK教育の番組「サブリナ」に負うところが大きかったことを記しておきます。

本書が日の目を見るまでには、多くの方々にお力添えを頂きました特に、

土壇場で極めて重要な示唆を会えてくれた山口さん、中井君。この小説をきだと言ってくれ、また面白いと言ってくれた斎藤さんいつでも私を待っていてくれた多田さん。ひとりよがりな持論を展開に倦まずつきあってくれた秋山君

彼らには改めて、お礼を言います。ありがとう、そろそろ鰤が美味しくなってくる季節です訪ねて来てくれば喜んでご馳走しますよ。

この小説に期間を与えてくれた選考委員の皆様担当のSさん。そしてイラストを引き受けてくださった仩杉さん(初版刊行時)、関係者の皆様

「氷菓」がこうして物理的に本になったのは、皆様のおかげです。深くお礼申し上げます

ところで先日、友人と寿司を食べに出ました。値段相応の味を堪能して、さて帰ろうかと車に乗り込んだまではよかったのですか、どうしたものか運転手を務める友人が一向に車を出そうとしないのです

時刻は食事時ですから、駐車場には次々と車が入ってきます。私達ははっきり言って迷惑になっていますですが、早くしろと俺がいくら促しても、友人は黙って曖昧な笑みを浮かべたまま車を動かそうとしません。

友人は決して悪戯きではなく、むしろ真面目で慎重な性格なのですが、今日に限ってどうしたというのでしょうか

倳の真相は、また後日。どうか後日がありますように

それでは、今後ともよろしくお願いします。

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我要回帖

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